「レ○パレス建ててる場合じゃないっすよ」 
今回のタイトルは、あるビルオーナーの言葉から。取材も終わり雑談となって飛び出た一言だ。一応伏字にさせていただいたが、もちろん本稿にレ○パレスを貶める意図はない。
そのオーナーの主張を要約すれば「オーナー自身が物件のコンセプトを確立せよ」ということにつきる。目先の利回りばかり考え、業者の言いなりになって物件を構築したところで、長期的なビジネスにはつながらない。オーナーなら自分の資産である土地をよく知り、よく研究してニーズを創出するような物件を構築し、時勢に合った経営をしていかなくてはならない。ごく当たり前のことだが、不動産会社や建築会社、マンション・アパート業者に乗せられその気になっているオーナーはおどろくほど多いのである。
アパート・マンション業者は物件が建った時点で損がないような仕組みになっている場合が多い。相場より高めの建築費はオーナーの負担で、土地も建物もオーナー名義で固定資産税もオーナーの負担。30年一括借り上げ、管理の手間もなしといえば聞こえはいいが、借り上げ期間が終わった後は時代から取り残され競争力を失った物件が残されるのみ。その時までに建築費の償却が終わっているとは限らず、賃料保障をうたいながら実際の賃料は数年おきに改定(もちろん減額である)される場合も少なくない。当初予定していた経営計画にはならない可能性があるということと、最悪の場合、途中で借り上げ契約を解除される可能性があるということ、そしてそうなったとき他人任せではどうにもならないということだけは肝に銘じておくべきだろう。
コンセプトの確立の意義を端的に言えば、競合物件との差別化だ。アパート・マンション業者が得意とするような日本全国津々浦々どの町にでもあるような物件ではなく、このマンションに入居したい、このビルに入居したいと言われるような物件の構築だ。入居者から「指名買い」されれば、もはや近隣の賃料相場に左右されることはなくなる。相場に左右されなくなれば、賃料設定の自由度は飛躍的に高くなる。他にない物件なら、入居期間も長くなる。結果として安定した賃料収入につながるというわけだ。
では具体的なコンセプトとは何か。前述のオーナーは「ソフトから入るとわかりやすいかもしれない」という。例を挙げると、特定の趣味やライフスタイルを持つ人専用のマンションがある。昨今ではペット飼育者専用マンションに、バイク乗り専用、音楽家専用、サーファー専用と、その種類は増加の一途をたどる。こうした物件はハード面の整備を先行させがちだが、しかし建物の管理やコミュニティの形成、入居者を満足させるような近隣スポットの存在とその告知など、物件の魅力アップにはソフト面の強化を欠かすことはできない。こうした物件を構築するには、まずソフト面で何ができるかを考える。ソフト面でカバーしきれない部分に関してのみ、ハード面の整備を行う。そうすることで設備が過剰になることもなく、居住者にとってちょうどいい物件ができあがるのだという。
とはいえ競合しない物件の構築は簡単ではない。それぞれのマーケットは小さく、ニッチを狙うことにつながりやすい。そしてニッチであればあるほど、物件がもつ訴求力と発信力の強さが重要になってくる。コンセプトを過信することなく、発信力を強化することも必要なのだ。
以上のようなことを踏まえ、コンセプトを確立させた結果「アパート・マンション業者に任せる」というのであれば、心配することは何もない。むしろこんなに効率的な不動産経営は他にないだろう。
久保純一 2018.3.20