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結果にコミットしないコンサルタント 

ある不動産経営コンサルタントとの雑談で、「クライアントが私のいうことをちゃんと聞いてくれれば、絶対いい結果がでるのに」という言葉を聞いた。彼女のいう通りのことがすべてできれば、その会社の不動産経営は必ず改善するのだという。そこで「結果にコミットできます?」と聞いてみると「できる」という。しかしここでいう「私のいう通り」とは結局「私のいう通りのビル」が生まれるということなのである。要するに、ゴールには必ず辿り着けるけれど、そのゴールは彼女が設定したゴールであって、それ以外のゴールを目指すのは無理ですよ、ということなのだ。「結局、コンサルタントっていっても万能じゃないから」。おっしゃる通りである。

個人で活動する彼女の得意分野は、築年数が経過したビルの再生。長期修繕計画や収支計画を見直しながら再生に必要なコストを配分し、適切な改修を行って稼働率や収益率を上げるという手法だ。築年数の経過した個人オーナーの中小ビルで、稼働率や収益率が下がっている、そんな物件に適したメソッドで、それなりに実績もあるようだ。しかしそんな物件は、彼女以外の多くの不動産経営コンサルタントの営業対象にもなっている。だからコンサルタントにも差別化は必要なのだが、差別化というより我田引水に見えることがあるのは否めない。

彼らはコンサルティングの際、自分の得意分野から思考を発展させていくことが多い。だから同じ物件でも、やり方も結果も大きく異なるのだ。例えば金融が得意なら決算書や土地建物の評価額とにらめっこして、どうレバレッジを利かせれば改修コストを捻出できるかといった観点から考えるだろう。建築が得意なら、まずは既存不適格を是正して物件を再生させる。そのために必要なコストを算出して、それを目標とした経営計画に書き換えて、といった思考の順序になるかもしれない。コンサルタントとはいっても、結局のところ自分の知っている分野で勝負するしかない。万能のコンサルタントなどは存在しないのだ。

クライアントとなる不動産オーナーからしてみれば、肝心なのはどのくらいコストが必要で、どのくらい儲かるのか。そしてその取り組みの結果、物件がどう変化するかだろう。たしかにそのための手段も重要だが、それは目的ではない。患者の目的は病気を治すことであって、薬の服用や手術は単なる手段にすぎないのである。それをいきなり「私はこの手術が得意だからここを切りましょう」と言われても困ってしまう。「私の言うことを聞いてくれれば必ず治ります」と言われたところで、そもそも「治った」という判断が医者によって違うことさえあるのだから始末に負えない。「(ワタシ的には)完治しています」などという言い訳が患者に通用しないことは明白なのに、コンサルタントは往々にしてこの言葉を使う。「(ワタシ的には)経営は改善されました」。

なにもコンサルタントを使うなといいたいのではない。多くの実績をもつ優秀なコンサルタントは少なくないし、特定の分野に秀でた信用するに足るコンサルタントだって珍しいものではない。しかしコンサルタントにもクライアントにも、歯科医師なのに眼科や耳鼻科の診療もできるように考えている人がけっこう多い気がするのだ。当たり前だが、内科医は手術しないし、外科医は健康診断はしない。コンサルタントとして総合診察医を目指すのはいいが、できること、できないことを明確にしておく必要はあるだろう。そのうえで、クライアントとともに最良の結果をだすための選択肢を探してもいい。高次医療にバトンタッチいたっていい。それこそが、ホームドクターの信頼だろう。結果にコミットできると断言すれば信頼を勝ち取れるというわけではない。

結果は大事だし求めるべきだが、コンサルタントが独善的に設定したゴールにたどり着いたところでクライアントは納得できまい。むしろゴールの設定はクライアントがすべきだし、不動産オーナーであるならば自身の物件をどうしたいかのビジョンは持っておくべきだろう。自分の健康状態を把握しておけば、ヤブかどうかを見極める眼力も身につくというものだ。

 

久保純一 2018.4.5