物流不動産ニュース

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地価は地下で決まる? 

某地方を取材で回ったときのこと。駅から乗ったタクシーの運転手は話し好きだった。その日は風が強く、植え付け前の畑から土煙が上がるので注意しなければと運転手氏は言う。この地方には大規模な工場も多く、こんな風の強い日は食品工場や精密機械の工場は大変なのだそうだ。この辺りは交通の便もいいし、都心からも近い。工場が多いのも納得できると筆者が言うと、運転手氏「たしかに交通の便もいいが、それよりも地盤がいいのです」という。

今から40年ほど前、某自動車メーカーがこの地に工場新設を計画した理由にも、安定した地盤が挙げられていたという。結局土地がなく新工場は別の地方に新設されたのだが、子会社や関連会社からは不満の声が挙がったという。

当たり前だが、すべての建物は地面の上に建っている。地盤はその基礎を支える重要な役割を担っている。これも当たり前だが、地震の際、地盤がしっかりしていれば揺れは小さくなる。必ずしも被害が小さくなるわけではないというが、軟弱な地盤より揺れの影響が抑えられるのは確実だろう。

企業の本社や官公庁が集中する都心3区は埋め立て地が多く、大規模地震の際の震度がより大きくなる可能性があるともいう。地面液状化の可能性の可能性も指摘されている。東日本大震災以降、BCPがクローズアップされているが、建築物の対応としては基礎の大深度化や耐震化や制振装置の設置などが一般的だ。しかし地盤の固い場所に建てれば懸念のいくつかは解消できるかもしれないのだ。もちろん交通利便性や立地の良さとトレードオフできるか否かは別の問題ではあるが。しかし地盤のよい土地は、もっと評価されてもいいだろう。地盤の状態が地価に与える影響が、現状では少なすぎる気がする。

もうひとつ、地価に影響を与えてもよいのではと思う地下のモノが「地中熱ヒートポンプ」だ。地下の温度は年間を通じてほぼ一定で、その地域の年間平均気温と同じかやや高い程度といわれている。東京なら地下の温度は約17℃で、これは冬なら暖かく、夏には涼しく感じる温度だ。地中熱ヒートポンプは、この気温と地下の温度の差を空調に利用する仕組みなのである。

まず地下にパイプを通し、水を循環させる。このパイプ内の水を、冬は地下の温度で温め、夏は冷やす。それをヒートポンプで必要な温度に変換して建物内に送るというシステムで、空調にかかる電気代の削減に大きな効果があるとされている。また一般的なエアコンより風がやさしく、起動後に冷気や暖気がすぐにでてくるというメリットもある。ランニングコストも安価で、長期的にはひじょうに優れた空調システムといっていい。

しかし最大のネックがイニシャルコストの大きさ。家庭用のものでも最低1千万円以上で、大規模なビルや倉庫となると数千万から数億円かかる可能性がある。現状では浮いた電気代だけでこれを償却することはできず、実質的に補助金や助成金を利用する以外に導入は無理ともいわれている。

しかしこの地中熱用の地下パイプ、寿命は半永久的という。一度埋設してしまえば、建て替えてもパイプは利用できるのだ。パイプは基礎に埋め込んでもいいし、最近ではパイプを垂直方向ではなく水平方向に通す工法もひろがっている。地中熱ヒートポンプのパイプが埋設された土地の価格は、埋設されていない土地よりも高くてあたりまえ、にはならないだろうか。

とはいえ日本での地中熱ヒートポンプの施工件数はまだ2千数百件。新築住宅の8割に設置されているというスウェーデンなどから比べれば、ほとんど普及していないに等しい。地盤同様、今後の認知度の高まりに期待するしかなさそうである。

地盤がしっかりしていて地中熱ヒートポンプのパイプが埋設された土地なんて、いずれ値上がりすると思うのだが、どうだろうか。

 

久保純一 2018.5.5