銀座の不動産価格に下落の兆し? 
少し前だが、東京・銀座で不動産の譲渡に際し損失が生じたというニュースが流れた。取得金額より売却で得た利益の方が少なかった、損をしたというのである。
損失は損失なのだが、実はそう単純なものではない。詳しい言及は避けるが、簡単に言えば予定していた売却先が資金調達できずに空振りに終わり、長期にわたって「売却予定地」として保有し続けた結果損失がふくらみ続け、ようやくこのほど売却できた、という流れである。
もちろん、この一連の動きを指して「不動産価格が下がったと」は言えない。目論見どおり売却先の資金調達さえ上手くいっていれば、売却益を出せた可能性もあるのだろう。売却予定先の資金調達が頓挫した経緯が不明だが、当初の売却予定額が妥当だったのだろうかという疑問も湧く。
不動産の価格は、そこから得られる収益を基準に算出される場合が多い。得られる収益(=賃料収入)が多ければ、当然売却価格も高くなる。しかし銀座では今、賃料はピークを迎えていると言われている。
店舗を構えるテナントにとって、賃料負担は軽くはない。一般的には物販で数%、飲食でも10%以下、サービスで10数%といわれている。客単価や立地によっても異なるので一概にはいえないが、銀座エリアにおける店舗の賃料はここしばらく上昇カーブを描いている。その一方で一般的な購買力・購買意欲は、景気回復が喧伝さているほどには上昇していない。テナントは相対的に重くなっていく賃料負担に耐えられなくなりつつあるのではないか。そしてその負担は、銀座に店を構える高級店にとっても同様のことが言えるのではないかというのだ。
前述のとおり、賃料が増額しなければ不動産価格も上がることはない。実需をともなわない価格は、言うまでもなくバブルだ。賃料がピークと言われているのにもかかわらず不動産の売価だけ上がっているのだとすれば、まぎれもなくバブルだろう。
もっとも銀座への出店には、そこで得られる収益以上の価値があるという考え方も根強い。なかでも世界中から人々が集まる中央通りは、日本のメーンストリートといっても過言ではない。そこに出店することによる知名度やブランドイメージの向上には、売上以上の価値が確かにある。出店を希望して果たせずにいるブランドの話も、いまだに耳にする。
しかしどんなにブランドイメージが高まるといっても、それに見合う負担には限度がある。「銀座に出店するメリット」と「銀座に不動産を保有するメリット」がかろうじて均衡を保っている。もしかしたら今は、そんな状況なのかもしれない。
久保純一 2018.11.20