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延 嘉隆の物流砲弾<8>意思決定出来ない“物流子会社”という“ハンパ”な存在 ~“物流子会社”の大半に“戦略”など無い!~ 


物流業界媒体やメルマガなど、情報発信される各種メディアで、意外と目にするのが“物流子会社”についての記述だ。そして、業界媒体やコンサルを中心に、“物流子会社”の“戦略”なるものにフォーカスする向きも目立つ。

筆者は、このような傾向に、著しい違和感を抱いている。なぜならば、真の意味での“自由”などなく、ファイナンスや雇用の経営リスクを背負わないプレイヤーに、果たして、戦略などあるのか?と疑問に思うからだ。同時に、自由なき物流子会社の声が、物流業界で喧伝され過ぎていると感じており、そのことが物流業界の実相を歪めている一因になっていると思えてならない


その理由は簡単だ。一つは、発注主(荷主)の立場であること(商流上、強い立場にいるので声が通りやすいこと)、もう一つは、媒体広告、コンサル報酬など、こと“カネ払い”の点では、圧倒的に、専業者よりも物流子会社の方が太っ腹だからだ。

この意見には、物流業界からの反論が多いと思われる。しかし、少なくとも、親会社が株式の大半を有する物流子会社に、会社法上、“真の”独立性・自主性など無い。つまりは、本質的に、“戦略”など存在しない。物流子会社の存在を定義し、事業会社としての戦略を意思決定できるのは親会社しかない・・・という当たり前の見方がマジョリティーを占めないのも、ある意味、物流業界独特のカルチャーといえよう。

解りやすく例えるならば、(中国に返還され、そのうち中国になるであろう)「香港に真の自由はあるか? 自主権はあるか?」、「中国を気にせずに物事を決められるのか?」といった同じ問題だ。基本的に、親会社の顔色を伺わなければ、何も決められない様は、香港のそれと同じだ。

もっとも、物流子会社の役員の過半数は、親会社の役員・担当者などで構成され、そもそも、親会社の意向に沿った意思決定がなされる構造になっている。ゆえに、実質的には、物流子会社が100%自由に意思決定できない。

無論、子会社とはそういう性質のものではあるが、親会社のロジスティクス機能を担う役割であるにも関わらず、国内物流しかケアしていない、それ以前に、親会社で、その機能性を定義されていない子会社、あるいは、嘗て、定義されていたものの社会やビジネスの変容に対応出来ていない時代遅れな位置づけの子会社も多い。

例外的に、自主性の高い会社(プロパー社長の意見が親会社の経営に反映される)や、自社でバキバキのオペレーションを手掛ける会社も存在する。さりとて、会社形態に着目すれば、国家に例えると「香港」、行政に例えるなら「都道府県」、いわば、“中二階”的な“ハンパ”な存在が物流子会社の実相なのだ。

筆者は、一貫して、「物流子会社に戦略など無い」、子会社としてのあるべき姿や位置づけは「親会社の経営陣と話し、親会社で意思決定するしか術はない」というスタンスを取っている。親会社を巻き込まない物流子会社の経営戦略議論など、所詮、自己満足、お遊びだ。

このような考え方にもとづき、筆者は1~2年に一件程度、誰しもが知るような会社の物流子会社の経営者から依頼を受け、親会社の経営トップと語る・・・という大鉈を振っている。これしか、物流子会社の実効性ある未来を語る方法は無い。

無論、筆者は、親会社の経営トップと議論する場に持ち込む“秘策”を有しているが、飯の種ゆえ当然書かない。そして、この“秘策”は、物流コンサル風情には真似出来ない“芸当”なので、同業他社におかれては、右から左に聞き流して頂きたい。

そもそも、決める権限が無い主体が、したり顔で高尚な話を語る。これは、物流業界における歪みの一つにほかならない(物流子会社の方におかれては、多分に、異論・反論があろうかと思う。しかし、次号で、筆者から物流子会社への提案を記すので、それをご一読の上、“自信”や“誇り”、“志”ある武士(モノノフ)からの連絡を待ちたい。

 

立場によって変わる“物流不動産”の位置づけ

ガラリと話が変わるが、「物流不動産NEWS」の連載ゆえ、物流不動産の見地で考えてみたい。

物流業界は、商流の上流から下流に掛けて、“暗黙”の力関係がある。倉庫の中だけに着目しても、「荷主」⇒(子会社がある場合は)「物流子会社」⇒「元請事業者」⇒「下請事業者」⇒「荷役会社(作業会社)」といったピラミッド型構造だ。

物流業界を眺めていて“不思議”に感じるのは、物流不動産にせよ、輸配送にせよ、改善にせよ、本来、商流上の立場によって受けとめ方が変わる筈の事柄が、ことのほか、ステレオタイプに語られ、もっぱら、商流の上位に位置する荷主企業や物流子会社の意見や考え方が“正義”として語られていることだ。

極論をいえば、“改善”など、発注側からすると極限にまで突き詰めるべきものであって、受託側からすると、しなくていいならしない方がいい(楽・オイしい)筈だ。受託事業者にとって、特に、改善も求められず、緩い単価で受託できる仕事ほどラッキーなものは無い。であるにも関わらず、十把一絡げに、“改善”を唱えるさまなど、まさに、“歪み”に麻痺している解り易い事例だといえよう。無論、受託側として発注側の顔色を伺い、合わせなければならない大人の事情はある。

筆者は、このような商慣習、いわば物流業界に蔓延するムードにこそ、専業者が“物流不動産ビジネス”を省みてこなかった理由の一端があるのではないか・・・と考えている。発注側にとって物流不動産に掛る費用は下げるべきものでこそあれ、受託側の“儲け”として配慮する、あるいは、専業者がそこを最たるキャッシュポイントとしていくことを後押しする積極的理由が存在しないからだ。

しかし、(そのうち記すが、個人的には転換期を迎えつつあると見ている)“3PL”に着目した場合、受託側の収益ポイントは、(慣れ親しんだ)輸配送は黒、作業荷役はやや赤字かトントン、物流不動産(という名の賃料差額の中抜き)で黒字になるといった構造になっている会社も多い。つまりは、物流不動産は安定的な収益を産みやすい領域であるにも関わらず、声を大にして言わない(言えない)空気が物流業界にはそもそもある。

もっとも、頭がいい専業者は、「仰せの通り」と発注側に歩調を合わせ、コッソリ物流不動産で利益を出している、更には、物流不動産の“売った・買った”を絡めてケタ違いに利益を叩きだしている。しかし、美味しい話を声高に説く理由もまた無いので、単に、黙っているだけの話・・・と筆者はみている。
いずれにしても、一口に「物流」といっても、発注側と受託側とで「物流不動産」についての見方も位置づけも変わる点、ひいては、発注側と受託側とで利害は異なる点を、今一度、指摘しておきたい。

●延嘉隆氏プロフィール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
株式会社ロジラテジー代表取締役。
物流企業経営の視点で、財務戦略(事業承継・M&A・企業再生)・マーケティング戦略を融合し、物流企業の価値を上げる物流コンサルティングファームとして評価が高い。
物流企業を中心に、事業承継・相続、物流子会社の売却など、“ロジスティクス”、“卸”、“小売”などの財務課題で、卓越した経験を有する一方で、物流現場に作業員として入り、作業スタッフとの対話に勤しむ一面も。延氏の詳しいプロフィールはコチラ。

*本連載に関するお断り