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〈レポート〉オンラインセミナー「フリーアドレスとイノベーション」オフィスのフリーアドレス成功事例、その効果とは!? 

東京・品川区の舗運送会社・谷口運送本社オフィスのフリーアドレス化リノベーションをイーソーコ総合研究所が手掛けました。

コロナ禍のなか、プロジェクトを立ち上げた狙い、試行錯誤のプロセスとその効果について、谷口運送・小林淳部長とイーソーコ総合研究所の代表・出村が対談形式で発表しました。

谷口運送株式会社 営業部部長
小林 淳氏

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株式会社イーソーコ総合研究所 代表取締役
出村 亜希子

2020年7月、小林氏はトップダウンでフリーアドレス(FA)化の命を受け、プロジェクトチームを発足、工事開始は9月28日、予想外のトラブルがありましたが、10月13日に竣工。現在はFAオフィスとして実際に活用され、ルール作りや働き方など試行錯誤されつつ、効果測定を行っています。

■トップダウンでFAプロジェクトチームを編成

--(司会/浅野)プロジェクトの経緯についてお聞かせください。

小林 コロナ収束の兆しが見えない、昨年の7月のこと。当時のオフィスはビニールなどに囲まれ、雑然とした中で仕事をしていましたが、その様子を見かねた社長の安田から、レイアウト変更を言われました。

その際に言われた条件は3点です。

(1)オフィスの社員が距離を保って働けること

(2)成果が出せる働きができること

(3)働き方改革の推進

考慮した結果、行き着いたのがFAオフィスでした。そこで見えてきた課題は約60坪の小規模オフィスに3部門で働いていたことです。規模が小さくないか、また予算面と目標とする9月末まで納期が3か月弱しかなかった点でした。その中、納期が一番の壁となっていました。そこで出村社長の顔を思い出して、お電話した次第です。

出村 小林部長とは後ほど、パネルディスカッションでもご出演いただく江島裕先生の主宰する物流マーケティング塾で1年間学んだ同期でした。

倉庫リノベーションで、当社がお手伝いする時に倉庫のインダストリアルなイメージを生かしたオフィスや、クリエイティブなイメージというご発注が多かったのですが、創業130年の歴史ある運送会社さんの本社オフィスを丸ごと改修することはかなりのレアケースだったと思います。

最初に伺ったのはフリーアドレスという条件でした。どういうものを求めていらっしゃるのか、納期のこともあり、早くすり合わせをしなければという焦燥感でいっぱいでした(笑)。

小林 フリーアドレスを成功に導くため、ポイントはプロジェクト化する、FAの調査とイメージの彫像、FAのコンセプトを決定することでした。これを持ってプロジェクトメンバーとともに、イーソーコさんにお邪魔しました。

出村 最初にお電話いただいて一週間後に多くの社員の方をお連れしていただき、本気度がひしひし伝わってきました。イーソーコのオフィスで実施したFAリノベーションの事例もご案内しましたが、メンバーの方の反応はいかがだったですか。

小林 帰りの車の中では、メンバーで盛り上がっていましたね。いろいろな部署からの選りすぐりのメンバーでしたが、実は後ろ向きの考えのメンバーもいたことは事実です。しかし、イーソーコさんの現場を目にしてからは全員の志がひとつになった非常に良い機会になりました。

--プロジェクト進行にあたり、ご苦労されたことなどはありましたか。

小林 コンセプトを決める作業に入ったのですが、イーソーコさんの見学で、各メンバーの熱量が上がりすぎてしまいました。レイアウト決めに集中してしまい、そうなると進行が行き詰まってしまう可能性も出てきました。

そのため、レイアウト作業をいったん止めて、コンセプト作りに舵を切りました。ポイントとしたのは「単なるおしゃれなFAは意味がない」「なぜFAなのかを自問する」「FA後、自分たちはどう変わって行くべきか未来像を考える」の3点です。

レイアウトよりコンセプト--、メンバーにこれを口酸っぱく言った結果、今回のコンセプトを「自律(立)と責任」に決めました。自由度が高くなるオフィスで、リモートワークも可能となり、時差出勤も導入することが決まっていました。自らの行動に責任感を持ち、成果を求めて働こうというコンセプトです。

コンセプト決めをする会議で議事録をとっていました。それを読み返してみたところ、自律・自立と責任というワードが出ており、それらを組み合わせてみました。

出村 このキーワードは社員のメンバーのご発言ですか。

小林 その通りです。メンバーの中で話し合った結果です。

出村 プロジェクトでメンバーの皆さんと関わることができましたが、ひとりひとりが自分のものとして考えていらっしゃっていました。巻き込み力がすごかったと思います。

小林 短期間ということもあり、メンバーはかなりの熱量で取り組みました。コンセプトが決まると次のフェーズはレイアウト作りとなりましたが、出村社長とも相談し、コンセプトをメンバーで考え、レイアウトはプロに委ねようということを決めました。実は、レイアウト案は、メンバー全員のコンペ形式にしていたのです。

出村 これにはびっくりしました。4名のメンバーの方がお考えになられた案を私が受けるという逆提案の形ですから。皆さんは自分のやり方でエクセルを使っている人、手書きの方もいて、本当に工夫して作っていらっしゃっていましたね。

小林 メンバーの思い入れが非常に強く、ひとつに選ぶことは困難でしたこともあり、持ち寄ったアイデアをプロに任せてよかったと思います。

出村 皆さんが考え抜いたアイデアがあったからことで成り立ったと思います。皆さんがお考えになったものを最後まとめさせていただいたという形です。

当初は迷いもあったプロジェクトでしたが、これで私たちも迷いがなくなりました。次に私たちが工夫したポイントを3点ご紹介したいと思います。

(1)費用を抑える工夫
費用を抑える工夫として、予算の中でどこにお金をかけるのか。メリハリのあるお金のかけ方はどういったものなのかを考えて計画をしました。また、同じ金額の中でも、よりグレードアップするにはどうしたらいいのかといことも当然考えていきました。

工事でコストを抑えるために工夫した点はいくつかあります。新しく壁を設置したのですが1から新しく壁を作るのではなく、既存のパーティションを組み替えて再利用して作りました。そのままの仕上げだと経年も感じる見た目になってしまうので、外側にボードとクロスを貼って新築のように仕上げました。

コストを抑えるため、既存の設備を活用しました。壁の位置を決めたのは空調を動かさなくてよい場所だからです。また、社長室の壁は喫煙室の壁があったため、パーティションを再活用しています。

会議室に接するところにスライドキャビネットがありました。予算が決まっていなかった時、プランの段階では動かす場所をいろいろ考えましたが、高さもあり、動かすだけでもかなりの費用がかかってしまうため、動かさなくても済むように固定のままで計画を進めました。

什器はオフィス家具メーカーの家具をすべて選定していたのですが、特にデスクはオフィスの中でも面が大きくてインパクトのあるところです。こだわりを持って造作での家具に切り替えて検討しました。しかし、オフィスメーカーの家具より、1.5倍とか2倍の金額となり、素材を工夫して天板と脚の素材を変えて別発注を行い、現地で組み立てることで製品と同じくらいのレベルの金額まで調整することができました。

大変だったのがフリーアドレスのテーブルです。3mの一枚ものでしたので、エレベーターに載せることができず、1階から7階までらせん状の階段から手運びで上げました。

(2)空間を最大限に活かす
コンパクトなスペースの中で動線を分けつつ、個人ロッカースペースを増やすなど、いろいろな機能を追加していく中で、フリーアドレスの空間を広く作るかというところは大きなポイントになったかなと思います。

オフィスのレイアウトはワンルームのような形状で、ご来社されたお客様はオフィスの中を通って、応接室に入る形でしたが、新オフィスのレイアウトではこのコンパクトな中で空間を設け、応接エリアと社員の方が働くワーキングエリアの2つにゾーニングしています。通路を窓際に設けることでレイアウト分けができました。ワーキングエリアは一体となる広い空間に見せるための工夫をしています。

社長室、間仕切りの一部はガラスのパーティションで作っていますが、なるべく縁が少なく透明性の高いものにして、空間が立体的に見えるように工夫して作りました。

またフリーアドレスエリアについては間仕切りではなく、キャビネットを使って部門を作ることで、広い空間づくりとしています。

(3)創業130年の歴史を表現
老舗の運送会社さんがお持ちの歴史を大切にしながら、これからの時代、新しい組織のあり方を考えていくオフィスにするには、どういうものががふさわしいのかを念頭に計画を進めていきました。

小林 130周年という歴史はプレッシャーに感じられましたか。

出村 ただかっこいいだけのオフィスではなく、老舗会社さんの本社オフィスを変えることが今後どのように影響していくのかを考えるとかなりの重責に感じました。ただ、お客様の歴史をどのように表現して、どう承継していくのかということは当社が得意とする倉庫リノベーションで工夫しているポイントでした。そこは私自身としても大切にしたいという思いがありました。

このプロジェクトで特徴的であったことは、谷口運送様がこの場所で業務の運用を継続しながら工事を進められたことです。本社オフィス改装する際は一旦仮オフィスに移転して、完成後に戻られる形が多いかと思いますが、事業を継続されながらプロジェクトを進めました。

また、工事をやる側として、隣で社員の皆さんの目がある形でしたので、プレッシャーも大きかったのですが、気さくにお声をかけてくださり、「ここはこうしたほうがいいんじゃないのか」など、いろいろなアドバイスを頂きました。皆さんが本当に自分のこととして考えてくださっていました。事業を継続しながらリノベーションしていくということで、結果的にコスト削減効果としては大きかったと思います。

創業130年の歴史を表現のポイントにしたのはエントランス部分です。来客者の方も社員の方も最初に通るエントランスの作り込みを工夫しています。ミーティングルームへの入口をパーティション組み替えて、内側から入る形にして、壁ができます。創業当時の法被や古い写真を展示させていただき、130年の歴史を表現する場所としています。

■社員コミュニケーションが活発

小林 竣工後にFA活用のための運用ルール策定と維持するためのプロジェクトをひとつ立ち上げました。そこで当社は、(1)前日と同じ席には座らない、(2)仕様後のデスクと椅子の除菌、(3)デスクでの昼食禁止・整理整頓の3点をルールとして決めました。

その効果、職場改善ができたことと感染対策もできていると思います。FA化導入を機に、移動しやすいノートパソコンに変更して、すぐにオンラインの打ち合わせができました。IT化の促進ができました。

また、部門を越えたコミュニケーションが活発となり、社内の雰囲気はよくなったと思います。FAはコンセプトに時間をかけましたから新しいオフィスでの意気込みという方すごいそれでも以上に感じています。

予想外だった導入効果は社外から、オフィス見学のお問い合わせが増えたことです。荷主様であったり、同業の方からがメインですが、物流業界ではFAに踏み切ったのは早かったからだと思います。きれいなオフィスになったことで、会社のイメージアップを図ることもでき、この効果で社員の採用も増えました。

プロジェクトでは効果測定をしていていますが、FA前後で月平均680時間の労働時間短縮に繋がりました。これは30%の時間短縮となります。また、IT化によるコピー紙も削減することができ、月平均で2541枚の削減ができました。

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その後、物流イノベーション塾の江島裕塾長とイーソーコ会長の大谷巌一も交えてパネルディスカッションが行われました。