これからの基幹産業− 第10回 国家戦略会議と物流
東日本大震災を契機にして、物流業界ではピンチとチャンスが明らかになった。一つはサプライチェーンの断絶という想定外の事件。在庫を絞り、JIT配送を前提とした高速多頻度物流は、幹線道路の分断、物流拠点の喪失、生産工場の孤立という災害時の影響を受けて、物流がどれほど懸命に尽くしても物理的な障害にはあらがえなかった。
もう一つは大災害における復旧や復興、そして事業継続という事態が生じた場合には、何より物流と物流実行力という隠された存在感が重要だと焦点が当たったことだ。災害物資も確保できれば救急・救命となり、待っていても届かない物資には自らが出向くという輸送手段の手当、そして難を逃れた物流拠点では生産も販売も異業種の機能を発揮できたことが幸いだった。
景気の低迷は大災害よりもはるかに始まり、その原因が供給過剰によるデフレ、金融危機による投資資金不足、20年続いた弱気の経済観を裏付ける労働力高齢化と少子化、そして世界経済が低迷していることによる輸出力の低下。そして追い打ちを掛けるように円高とエネルギー問題。
東日本の土木建設を中心とした復興は確実に起きているが、今までの主力産業だった鉄鋼、自動車、家電、住宅、精密機械は輸出力低下とエネルギー問題を抱えて低迷から抜け出せないでいる。
消費の低迷は家計の不安に影響しており、先行き10年を見ても復活の兆しはどこにもない。新商品が必要なのか、もっと低価格が求められているのか。消費者の傾向は好転できないだろう。
自動車を欲しがらない若者、コストで負けた鉄鋼、人口減少に向かう住宅需要、アジア製にマーケティングで劣位にある家電、精密機器、電子部品。いかに政府が補助金、値引き、お得感を打ち出してもこれからの基幹産業はすでに気色を失っている。
政府は新経済成長戦略として、「医療」「観光」「教育」「宇宙技術」などの高付加価値、高生産性が期待できる産業に白羽の矢を立てている。そのように時代を予測し、広く新サービス産業を育成していこうと考えた。これに乗るか、それとも独自路線を探し出すか。業界は原材料、顧客市場に支配されている。自動車はエンジンからモーターに代替しても、電機業界という競合こそ登場すれ、自動車からは離れられない。副次事業での収支代替には届かない。金融であり、保険であり、情報コンテンツ産業は専門業界からはほど遠い。
食品衣料、鉄鋼、住宅も同様に素材から離れられない。顧客を開拓するために自らを変えることは出来ないでいる。
対して物流はすでに荷主を超越するほどのネットワークの広さと深さ、情報処理とその活用に強みを持ち出している。業種に併合された影の役割から、物流技術を駆使する流通業へ転換し始めている。小売りが卸売りが立地や品揃え以上に物流技術とネットワーク、情報付加価値を高めることで物流業が物流を超越し始めている。
原材料素材と顧客市場から離れることが、物流業界の強みであることを再認識したい。
日本社会が高齢化と少子化の課題を持てば、その解決策は物流によって実現可能となる。世界における課題先進国となった日本にとって、人類や社会の夢の実現である以下5つの課題を物流によって解決できるであろう。これこそが日本の基幹産業となるのだ。
1 健康と栄養に心配がなくなる事
2 快適な住まいで住宅に不満がなくなる事
3 歳を取っても、やる事、期待される仕事に関われる事
4 お金の心配がなくなる事
5 社会や環境に不安のないエネルギーを作る事
(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント 花房 陵)