物流不動産ニュース

物流、物流不動産、倉庫を網羅した
最新ニュース・情報を発信しています。

  • メール会員情報変更
  • メールマガジンバックナンバー
  • ニュースメール配信登録

財政不安と産業政策 − 第11回 国家戦略会議と物流

 中小企業に働く人、そして経営者にとって政治話題はしょせん床屋政談の扱いであろう。聞くともなく話すともなく、グチを言い、政治家の悪口を言い合ってうなずくだけ。ではどうしたらよいのか、批判だけでなく代替案、建設的な提案は考えられるのか、しかもそれが実現可能なのか、というと行き詰まりになることが多い。

 望ましい姿と実現可能性は常に両輪となっていなければならない。評論家は耳目を集めるけれども、忘れられることだけが得意だ。問題には原因があり、原因が分かれば対策を打つ。すぐさま対策が実行できない条件を課題といい、課題を消化してゆくには時間と金、そして様々な準備が必要になる。
 なぜなぜなぜを繰り返して真因を見つければ、対策は一手で済むなどという簡単な事ではない。職場の問題も経営も、そして政治や国家の問題だって、短絡的に解決できるなら、後々の間違えが尾を引くことになる。真因など一つであるはずがないが、床屋政談では短絡となる。それは、議論と追求が短すぎるからだ。

 日本の財政は末期的な状況に陥りつつある。国家予算は果てしない借金を繰り返しても税収が減り、社会保障支出が突出し、それでも景気浮揚のために公共投資や特定業界への補助、助成がふんだんに盛り込まれている。複式簿記でいう貸借対照表がないから、我が国にどんな資産があるのか分かりにくいが、確かに使える資金は少ない。土地や建物、インフラ設備などはむしろ不良債権化している。
 自民党政権55年間の反省として、私たちは民主党を選択したが、彼らの言う節約やムダの追求は全く的はずれであり、国家予算は自民党当時よりはるかに膨張した。それが例え年金や医療保険のためであっても、公約はより小さな政府によって国民の幸福を追求するものであったことを思えば、政権交代は何の役にも立っていない。

 今また将来の消費税増税が決議されようとしている。産業にとって、家計にとって増税は意欲を喪失する最たるものだ。確かに福祉や公共のために政府支出を増やさねばならないなら、景気を回復させ自然増収となるように図らなければならない。そもそも税は景気の安定剤としての役割があるからだ。恐慌と急激な成長は時間サイクルで繰り返されてきたことが近代の歴史で証明されてきた。しかし、この25年間は長引く不況というか恐慌予備軍の状況にある。これは明らかに政策の失敗であり、直近のバブル急成長は金融政策の失敗だった。なにせ、メーカーも流通も営業部門を差し置いて、財務担当が土地と株式投資に走り、銀行もそのための融資をジャブジャブと続けてきたからだ。
 その反省はどうしたか?誰か責任を負ったか?実は銀行は責めを負い、実質上の超リストラ策を余儀なくされた。大学を優秀な成績で入行して、将来の支店長、頭取を目指した階段は突然崩れ去り、キャリアアップの夢は消え去った。

 民主党政権の言い訳に公共投資が利権を生み、利権が政治とカネを汚くしたと一斉に公共投資を減らしてきた。それはどこに向かったか。建設業界から自動車、家電、住宅産業にそれは道を変えただけであった。エコカー補助金、家電エコポイント、住宅エコ、いずれも数千億円の値引き原資を国が保証して、総額2兆円は昨年消えていった。それによって一時しのぎとも言える活況が自動車、大型テレビ、新築住宅に現れたが、2年も持たずに各業界は苦戦を強いられている。業界が潤えば雇用が生まれ、給与が上がって消費が活性化するというのが、従来の公共投資による景気復興策だったが、ケインズ政策と呼ばれた有効需要の原理は先進国で効能を失っている。それは、社会不安による貯蓄率や貯金の取り崩しという今までに想定していなかった消費者性向だからだ。

 業界を特定して大量の現金を注ぎ込むことで、景気にカツを入れようとする政策は、今までのところ失敗だった。もう一度別の業界で狙おうというのが、再生日本の成長戦略と呼ばれるものだ。グリーン、医療介護教育観光、ITで言うコンテンツ産業、ポップカルチャー、いずれも産業としての規模がまだ小さく、歴史も浅い。だから、わずかな支援で雇用が生まれ、企業がテイクオフする可能性は大きい。もっともつぎ込める資金も少なくなってきているので、高齢化家計にため込まれた貯金をあぶり出すように、貯蓄と投資の違いを国民啓蒙しなければならない。小泉竹中タッグで猫も杓子もFXや投資信託に走ったブームをもう一度、今度はベンチャー企業や優良成長企業に振り向けたい。国債ばかりでなく、もう一度株式投資へ向かわせるにはどうするのか、そのあたりにこれからの景気刺激策の効果が読みとれることになるだろう。
 ちなみに日経平均は決算月を迎えて、更に下げ傾向にある。絶妙の投資タイミングが来ていると言える。株価が下がれば営業努力よりM&Aに向かうだろうし、下げ相場はプロによる信用取引が活況となるからだ。やはり、カネにものを言わせる時期に入っている。
 投資、投機、運用という金の回し方が、しばらくは優位に働くだろう。

(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント 花房 陵)