始まった国家戦略会議 − 第5回 国家戦略会議と物流
再び企業不祥事が続いている。今度は企業年金の運用を一手に任された、投資顧問業界が損失を隠していたことが発覚した。リーマンショック以降、ぼろぼろになった金融業界に大きな傷があったことが表面化したのだ。リーマン事件とは、銀行証券保険という金融業界が新たな儲け口として発明したデリバティブ証券をたらい回しにして、最後にババを掴んだ結果の巨額損失だった。債権という利息を義務づけた約束が信用できないなら、債務者の破綻危険を保険商品としてCDS(クレジットデフォルトスワップ)という証券に仕立てて、それを売買するものだが、「貸しても儲ける、相手が潰れても保険で儲ける」というロジックがそもそも無茶なことだから、いつかは誰かが多額の損をすることは明らかだった。
AIJは国民年金、厚生年金の更に上乗せを狙った企業年金の運用を高利回りで募集した、一種のリーマンと同類だった。だからいつか、誰かがババを掴むのは明らかだったが、欲ボケの担当者と口先巧みな営業マンの茶番劇はいつまでも続かなかった。というのが、事件の真相だが損失2000億円は巨額に見える。
しかし、では本流の国民年金は116兆円の基金を運営しており、これから毎年1兆円の支給が必須の運用状況はどうだろうか。名簿がずさんで消えた年金手帳以上に、損失や不祥事の心配はないのだろうか、と思いを巡らしたのは筆者だけではないはずなので紹介しておこう。
運営の実務者は『年金積立金管理運用独立法人』が行っており、毎年の運用成果を公開している。驚くなかれ昨年の損失は3000億円、直近5年間では5兆円のマイナスを平気の平左で公開しており、誰も責任を取っていないことが、今国会の予算委員会で指摘されていたのだ。▲5兆円/116兆円=▲4.3% 目減りも甚だしいのだ。
AIJのように虚偽報告こそせずに実態を公開しているが、こっちの方が大問題だろう。消費税増税の理由が年金・健保不足にあるのだから、運用失敗を先に取り上げねば増税議論すら虚しいからだ。
さて、このようなマスコミや世論の「分かりやすい、目立つ事だけ話題にする」態度は改めなければならない。が、本紙の目的ではないので本論に移る。
国家戦略会議は議題を消化している。再生日本に必要な要素は次の3つだ。
●確かな成長の実現(経済フロンティア開拓)
●分厚い中間(所得)層の復活(国民、社会のフロンティア開拓)
●新たなフロンティアと世界への成長・国際貢献モデルの提示
急激な円高は製造業の国際競争力をそぎ、工場の海外移転を後押ししている。雇用が失われ、企業城下町は衰退の一途にある。産業空洞化は労働者の所得を引き下げ、社会保障の将来不安も重なり、消費大国日本の家計を圧迫して中間所得層の賃金が目減り、更には貯蓄の取り崩しが進んでいる。
ならば、空洞化対策としてのTPP加盟による更なる貿易立国を目指したいところであるが、円高傾向が根深く、日銀の数兆円にも及ぶドル買い介入が効を奏していない。更にドル債が積み上がり、外貨準備高が100兆円を超えるところまで来ている。
いっそうの円高は為替差損となり、国富はますます数十兆円の毀損を招いている。エコカー減税、省エネ住宅支援、東北復興予算25兆円の注ぎ込みによる土木建築業界の追い風が国を牽引できるかどうかに掛かっているのだ。
流通業界はデパート再編に続いて、業態転換が必須だろう。どれほど店舗を大型化しても来客数はエキナカ、駅ビルに敵うこともなく、量販、スーパーも来客マーケティングよりも、通販、ご用聞きマーケティング、小売店はネットと併存の通販事業へ転換がいっそう早まってくる。
物流業界はどうか。業界から業際への転換が必要なのではないか。保管して配送するだけでなく、製造と精算、受注と営業活動までの業際にチャンスがあるだろう。物量拡大という規模が見込めない以上、早期に「事業範囲の拡大に伴う、ノウハウチャンス」を目指すべきではないか。
自動車物流なら、部品流通から完成車、展示場から個宅の駐車場、事故対応や整備、保守までワンストップで「自動車サービス産業」というフロンティアを目指さなければならないだろう。