先端技術・宇宙海洋産業と物流 − 第7回 新経済成長戦略と物流不動産
ヒドイ為替の乱高下で輸出産業が痛めつけられている。国際競争力を高めるとはよく聞く言い回しだが、「優れた技術や商品を世界 に売る」ためには、貿易技術と為替相場への知見がものを言うのだ。同じものを1ドルで売るなら、為替は安い方が得だ。1ドル=360円は東京オリンピック の時代だが、つい最近までは120円程度で落ち着いていたところが、一気に80円まで円高(ドル安)が進行すると、手取りが3割も下がってしまう。
為替相場とはギャンブルそのもので、専門の銀行や市場まであることをご存じだろう。企業や銀行の為替リスクを逆手に取る商売で、上がっても下がっても博打の胴元のような役割を持っている。
円高で一番の被害者は実は日本国民である。輸入ブランド品やガソリンが安くなるなどというのは、欺瞞である。郵便局や銀行はアメリカ国債をドルで 8000億ドル、1ドル100円平均で購入していたから、80兆円の証券資産が数ヶ月の円高で16兆円も目減りした。年間の消費税全額と同じだけの損を一 気にかぶっている。なぜ、慌てないか、なぜ責めないか、なぜ黙っているのか。だから預金金利も上がらないし、日本の財政が火の車なのだ。不思議でならな い、隠れた意図があるのだろう。日銀も郵貯も語らない訳を知りたい。
ところで次期有力産業に挙げられているのが、先端技術と呼ばれるものだ。日本の技術が医療や宇宙、深海や新産業のネタになるというものだ。
東大阪の中小企業がロケットを打ち上げたり、鍛造精錬の技術で「痛くない注射針」を生んだ。iPADもiphoneも日本の技術がなければ陽の目 を見ることはなかった。もっともテクニカルという技術よりも、デザインという差別化に商品がヒットした理由があるそうだ。しかし、金属やガラスの磨きや カット、仕上げの技術は日本の伝統技能に挙げられている。技能オリンピックのチャンピオンがしっかり技術者としてアップルに居たそうだから。枯れた技術で 最新のデザイン商品、というのがアップルの売り物になってきた。おそらく原価は驚くほど安い。デザイナーに数億円のボーナスを払ってもなお余りある、新し い生産工場を生み出したのだ。
ファナックやホンダのロボットも数え上げたい日本のお家業産業になりつつある。
先端分野 ロボット、宇宙、航空機、レアメタル、ナノテク、高温超電導、機能性化学、バイオ医薬品、炭素繊維、高度IT・・・新産業はここから生 まれている。基本は産学協同の産業であること。つまりは人の良い大学教授と大学院生が町工場に出向き、社長と膝を交えながらこつこつと積み上げている熱意 と愛情の産業でもある。
今まで政府や国家は無視していた。政治家も票田には成り得なかったから、「民の努力」は放置したままであったが、さすがに大手既存産業がしんどく なってきた以上、これらの零細企業に注目せざるを得ないのだが、そこには貿易の技術と為替の知識がないとせっかくの努力や宝の山が一瞬にして消え去る。3 割の為替変動があるなら、付加価値も一気に吹っ飛ぶからだ。物流と貿易は近いものがあるが、為替知識はどうか。ちょっと縁遠い感じがするだろうが、これか らの新産業と取引を行うには国際動向への情報感知力が欠かせないことはお気づきだろう。
今の為替がどうなっているのか、中国の元はどうか。なぜイギリスはユーロに参加していないのか、ドイツはどうか、…。
知るか知らないか、興味があるかないか、荷主はどんなパートナーを捜しているのかを振り返ると、単純物流会社で安い早い正確だという営業マンと話をしたいのだろうか。
学ぶことが営業チャンスになり、知ることが世界を広げるチャンスなのだ。
(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント・花房陵)