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業界が生まれ変わるために − 第9回 クライシスマネジメントと物流対策

 産業転換とは歴史のことである。農林水産業という、天然の恵を受け取る事を第一次産業と呼んで、産業の基礎と為してきたが、国と国民の成長は第二 次産業として、製造流通を必要としてきた。それは人口の増加に食料供給が間に合わなくなるからだ。自給自足社会からの脱皮が産業構造を第一次から第二次へ と進化させた。
 第二次産業が備蓄と保存を可能とすることで、食が満たされた。増える人口の生存は確保される。生存の安定が図られてくると「ヒトはパンのみのために生き るに非ず」となり、次は幸福や充実、満足や欲望の追求となり、そこに第三次産業というサービスや付加価値の仕事が登場する。第四次産業は定義が曖昧で、 ITや業際混合を表しているらしいが定かではない。
 産業構造の転換は、人口増加と都市への集中がきっかけになっていたが、我が国はピークをすでに越えている。人口増加も世帯増加も生活密度も下がってきて いるし、医療の高度化によって生存確率が格段に上がって、平均年齢が高まった。そして、出生率より生存率が超越し、高齢人口が増加している。食は十分すぎ るし、活動行動も控えめになっているから、保存も備蓄も過剰になり、よって第一次、第二次産業はすでに衰退傾向になっている。GNPの構成分布と成長率を 見るためのスカイライン分析がそれを如実に示している。
 何より量が必要な製造流通は、もう伸びる余地がない。画期的な商品サービスが登場したとしても、それは代用、代替消費にしかつながらず、高額省消費のブランドマーケティングも、いつかは行き詰まることが明らかだ。
 サービスや付加価値は、ヒトの欲望につながる産業だから、「もっともっと」という余地はまだあるが、衣食住には限りがあり、消費は単位当たりで逓減することが確実である。
 第一次から第四次産業までが共に成長や拡大を続けるための、人口増加という前提条件が喪失した今、産業構造は一体化することでしか余地がない。成長では なく成熟というのが、その証拠であり、成熟は品質を高めることに注視する。または、領地拡大という人口取り込み戦争を抑制する価値観が強ければ、自国は衰 退の道をたどるしかない。
 
世界の紛争、戦争は民族問題や宗教問題と勘違いされるが、各国の政治政策の延長にあり、平たくいえば産業構造を維持するための人口、領土、資源の獲得なのである。許されない価値観を持ち続けるには、世界を相手にする度胸も政治手法となるのだ。
 秩序と安定を正義とし、紛争や国境問題を扱わない以上、産業構造の転換は自国の存続に欠かせず、我が国はもの作りや産業内部の技術革新だけではどうしても足りない。
 それぞれの産業がより多く売るか、より高く売るためには、物流の役割も必要だが、産業が素材や市場、顧客に縛られることを回避することがより重要だ。
 日本の産業は、複雑に絡み合った素材関係や流通の多段階化がコスト競争力を下げてきた。第一次産業は規模を拡大して、加工流通まで手を広げる余地があ る。第二次産業は流通の多段階を排除して、直行直結の流通小売り一体化に余地がある。第三次産業は、高価格と顧客獲得のための外交手段を手に入れて、グ ローバル化を進める余地がある。しかし、いずれもこの50年間では、取り組んだ成功例がなく、産業内部のM&Aによる規模拡大に走るのは仕方がない。まだ 成功確率は高いから増えているのである。手法はいずれ模倣され、ブームとなり、独占と寡占を別の価値観で排除しようとするから、終演はまもなく訪れる。
 そこで最後の手段としては、産業が素材を離れ、役割分担を返上し、生産と販売と物流を一体化する、かつて創業時の組織構造であるが、実態は大規模なマ ザー空母のような企業を目指すことになる。資本蓄積に長けたサービス産業が、生産と販売を目指すところに勝機が訪れるだろう。
「作るのでなく、売るのでなく、使わせる」産業が必要となるのだ。そのために内製して、消費して、新しい価値を販売する技術が成立する。これこそが、新 サービス業態であるとも言えるし、脱工業、脱流通業とも呼ぶことになるだろう。脱物流業とは、何を目指すべきなのかを志向する時代が始まっているのだ。

(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント 花房 陵)