倉庫を建てる人 − 第7回 物流不動産のにぎやかな人たち
倉庫は時間と空間を超越するために作られる夢の施設です。来月売る商品をその価値を維持したまま保管したり、日本全国に散在する生産や収穫の場所から人知れず時間帯に輸送を行い、必要とされる時にどこからともなく売り場に届けられる回り舞台のようでもあります。
そんな物流の役割を生業としてきて、当たり前と思っていた人は新しい倉庫を作るときには、夜も眠れぬ思いに駆られます。いつまでたっても、設備投資の意思決定はできない、清水の舞台に立つ思いなのです。
「予約の貨物は建設が終わるまでに残っているか」「生産や流通の景気は長続きするか」「建てた後でも安泰とした事業になるか」・・・・悩みは尽きず、意思決定したことへの後悔と不安が収まる事がなかったのです。それはなぜか?
「投資の意思決定とはそういうものだ」とか「悩めるのは企業家の宿命だし、そのプレッシャーこそが生きがいだ」というのも、ずいぶんと無理があります。結局、リスクとチャンスを分離できていない、言わば未成熟な悩みといえるのです。もし倉庫建設という一大プロジェクトを次のように分離して考えることができるなら、悩みと意思決定は、リスクとチャンスとしてはきれいに整理され、それぞれ確率によるリスクヘッヂや対策が計画されることになります。
それは倉庫の設計と建設計画、資金計画、貨物の営業計画の3つに分散させて、できれば3社、少なくとも2社の事業として組み立てることです。
そのことは失敗リスクの分散であり、成功チャンスの拡大であり、協調パートナーシップの確立による継続的なビジネスの取り組みにつながるからです。
3社の意思決定は、『どのような倉庫設計が合理的か』『どのような資金収支が合理的かつ最大効率か』『どのような営業体制が効果的か』という、きわめて科学的な視点での、投資判断、営業判断、効率化判断になるわけです。
たった一人の経営者の状況判断より、3名のそれぞれが限られた経営資源についての経営判断した方が失敗の危険性が低くなることは明らかです。
倉庫開発がこのように建築業者、投資ファンドや機関投資家、物流事業者に分離分割されたとき、新倉庫開発ラッシュが沸き起こったのです。それは、低金利政策による過剰流動性とか、不動産の証券化政策による流動化の成功とか、3PL事業者のビジネスセンスの良さ、というものではなかったのです。
リスクとチャンスの科学という知られざるキーワードに大きな要因があったと考えられます。3社がそろった時、3社の意思決定のスピードは3倍となって新築倉庫のラッシュとなったわけなのです。毛利家に伝わる3本の矢のたとえは、今も生きていたのです。しっかりもうけた人が居るのですが、あえて匿名にしておきましょう。
(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント・花房陵)