物流不動産戦略の答え − 第10回 物流不動産不況と戦略
昨年からの100年不況で物流の役割が大変革を起こしています。政権交代にあるように、「従来の慣習や常識が覆されている」とでも言うべき状況です。物流の鉄則は規模の拡大に伴う合理化、効率化の推進です。これが原則で黄金律でしたが、景気後退に伴う物流現場やトラックは規模が激減、縮小しています。ならば合理化効率化は行き止まり、打ち手がありません。
コスト削減には「隠れていたことを前面に出して、やらないことを宣言する」以外には何もないからです。ムダやムラが生まれるのは規模が増えていく過程にしかなく、物量が減ってゆく過程では空き時間が増えているだけです。時間の過ぎるのを待つのは誰でも得意ですから、コストダウンにはリストラしかなく、従業員や物流機能の多能工しか打ち手がありません。休まず手を動かし続けなければ、付加価値は生まれないからです。
大規模物流施設を埋めるほどの商品は、単独では確保できませんから、おのずと3PL業者による共同物流が日の目を見ました。複数倉庫の移転と集約による大型倉庫の需要は確実にあります。使い勝手の悪い古い倉庫は新築に敵わず、移転によって輸送距離と時間が短縮させるために引越し需要が増えています。
このように物流施設の大規模化、新築化、移転集約の受け皿としての大型物流施設は常に拡大してゆきます。しかし、一本道の限界はそろそろ見えてきました。
生産の空洞化と市場の縮小に伴い、物量の減少は長期トレンドになっているからです。移転による代替需要が止まったとき、物流不動産のビジネスは次のステージに進むことになります。
移転や規模の次に来るキーワードは何でしょう。規模の経済性に代わる経済原則は「範囲の経済性=多能工」しかありません。
物流にとっての多能とは、製造・販売・情報・管理・広告・宣伝・商品・開発という経営機能の肩代わり、つまり代行とか部分受託ということになります。
生産現場から小売の消費者まで、代金の回収と資金繰りシミュレーションの代行です。かつて物流を切り離して分離することが正攻法であったことを思うと、逆行こそがこれからの正解になるのです。むしろ分離していることの経営リスクが高まっていることへの警鐘です。物流の見える化が遅れたための事故や信用不安はコストと引き換えでした。
これからは物流事故が顧客と市場からの撤退を宣言されることにもなりかねません。営業と物流の一体化、伝票や情報だけでなく現物の動きそのものを常に監視できる本社が必要なのです。
これから物流不動産カテゴリーに入る物件は、企業の研究所、工場、情報システムデータセンター、本社や営業所、更に言えばそこには必ず物流倉庫やセンターが併設されているという青写真です。学校や病院、行政機関にも物流は存在しますから、首都圏遷都の話題になればすべてが物流不動産の対象です。
商物分離がコストダウンであったなら、商物一体がリスクヘッヂの基本になるし、迅速なビジネスと意思決定の原点回帰なのです。
集約化と規模の拡大という道が狭められた物流では、新しい用途としての規模と集約が求められます。分散した営業所はITと物流輸送によって統合化し、すばやい意思決定のためのワンフロア本社が物流施設に隣接されるのです。
グーグル、ヤフーは都市近郊から世界に乗り出しました。世界に通じる立地は物流と本社が一体化した都市近郊にあるのです。首都圏には店舗と営業所があれば足ります。コスト、職場環境、自然と地域活性、行政や住民がこぞって賛成するランドスケープモデル構想がこれから10年間、続々登場するでしょう。
(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント・花房陵)