物流不動産ニュース

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日本政策投資銀行 企業金融第3部物流グループ 古田善也課長 − キーマンに聞く 第10回 

 物流業界の専門担当グループを置き、業界振興のために尽力してきた日本政策投資銀行。同行の現在の物流グループの責任者である、企業金融第3部物流グループの古田善也課長に、物流不動産施設の変遷と、今後のあり方について、お話を伺った。

古田様

<写真・古田善也課長>

―まず日本政策投資銀行の概要と物流分野の関わりについて、ご説明ください。

 当行は日本開発銀行と北海道東北開発公庫が、統合する形で1999年に設立。社会の持続的発展や豊かな国民生活の実現のため、長期資金の供給や出 資など金融の面からの貢献に努めてきました。現在の重点分野は、「地域再生支援」・「環境対策・生活基盤」・「技術・経済活力創造」の3つを掲げ、社会的 意義の高いプロジェクトの形成に積極的に取り組んでいます。

 物流分野の取組みは旧機関当時から物流業界の専門担当を置き、物流拠点整備やシステム化、近代化など日本の物流専業ニーズを汲み取ることに注力し てきました。道路・港湾・空港だけでなく、物流不動産も、生活基盤を支える重要な物流インフラ、すなわち社会資本である、という観点から、業界の一助にな れるよう、これまで取り組んできました。

―近年の物流不動産に求められるニーズの変遷について、どのようにみていますか。

 物流不動産においては、産業インフラのニーズに応えるため、大量製品への対応を図ったいわゆる「保管型」から、13、14年前から消費インフラの ニーズに応えた、多品種少量生産への対応(通過型)へと移行し、さらに7、8年前から金融インフラのニーズに応えた、金融的な評価目線に対応する動きが活 発化しました。

 こうした不動産ビジネスと金融手法の連携は、住居、業務棟、商業系の順に進み、物流不動産に波及し、外資を中心としたファンド企業による大型施設建設の動きにつながっています。

―物流不動産ファンド施設の供給が進んだことで、既存倉庫業者に対しての影響はどのようなものがありましたか。

 荷主のアセットの集約化、3PL業者の事業ニーズに応えた大型施設を求めるニーズは確かに高まっていますが、規模や機能を求めない荷主もいます。堅調な景気と物量にも助けられて、総じてみれば、これまでは住み分けができていたと言えるのではないでしょうか。

 しかしながら、玉突きによる影響を含めて、やはり機能の低い小規模施設で空き床や賃料へのマイナス影響は聞かれるようになってきました。景気の足 踏み感が強まることに加え、荷主側のニーズがますます高度化するなか、既存物流業者にとって、従来のままの物流不動産運営がこれからも続くとは、必ずしも 言えない側面があります。

―既存物流不動産に新たに求められる要素とは、どのようなものがあげられるでしょうか。

 まず、産業インフラ、消費インフラのニーズの観点から、温度管理、出入庫データ管理やセキュリティ機能の配慮など建設における工夫を行わなければならないことと、庫内で働く作業員のアメニティを改善していかなければならないといえるでしょう。

 物流業者側は自嘲気味に、自社の物流環境を3K(きつい、汚い、危険)と呼ぶことがありますが、これを3A(明るい、安全、アットホーム)へと変えていくことで、魅力ある職場環境を実現し、労働力の確保を図っていくことが必要です。

 さらに長いスパンでみた場合、やはり資産価値の維持を図っていくことを考慮しなければならないのではないでしょうか。足下で金融インフラのニーズ を端的に反映している証券化や流動化対応を念頭とすれば、遵法性の確保、物的瑕疵の事前チェック、プロパティマネジメントの実施といった策は当然に求めら れるでしょう。

 しかしながら、既存の倉庫がすべからくこうした要請に対応して流動化を図る必要など全くないと考えています。ただし、不動産ビジネスである以上、 流動化するしないにかかわらず、収益不動産としての資産価値をいかに維持していくかという観点では、こうしたチェックポイントへの対応は、短期的には難し いかもしれませんが、長期的には考えていかなければならない要素だと思います。

 さらに産業インフラ、消費インフラ、金融インフラのニーズに続いて、物流不動産においては今後、「社会インフラのニーズ」に応えていく必要があるのでは、と考えています。

―社会インフラのニーズとは具体的に、どのようなものでしょうか。

 前述したとおり、物流不動産は生活基盤を支える重要な社会資本としての役割があります。ただ、それだけ重要な社会インフラであるにも関らず、たとえば近隣環境の変化によって、物流施設が迷惑施設ととられるケースは多々あるわけです。

 これは日本の都市計画が、商業、物流など都市機能についてゾーニングを徹底しないまま、建物・機能がモザイク状に入り組んだ結果、生じたもので、 商業系施設はとくに都市計画の迷走に引きずられた格好となっています。それに比べれば、物流には流市法にみられたグランドデザイン的な思想はあったのです が、都市生活を支える物量がかくも膨大になったことでそれでも不十分といえます。40年前であればゾーニングを徹底させ、こうした問題を解消する方法も あったと思うのですが、現在では、そうした方法ももはや現実的とはいえません。

 こうした現状への解決策として、変わり続ける都市環境の変化に対しては、アセットの方が柔軟性を持って対処し、長期のスパンで人々から受け入れら れる施設として存続し続けるようなあり方があるのでは、と考えています。そのためのさまざまな取組みを「社会インフラのニーズ」と称しています。

 単体規制をクリアしただけの自己完結型の施設のあり方から最近では周囲との調和を考えるようになりました。次に時間との調和を図り、時間的劣化の ないアセットストックへと変えていく。免震構造の採用、耐久性の向上など、災害に強い、社会インフラとしての防災への配慮を図っていく。さらには環境への 配慮として、屋上・壁面緑化、太陽光・風力発電、廃材をリサイクルした建て替えを進めていく。とくに廃材リサイクルについては、今後、本格化する既存の物 流施設の建て替えにおいてニーズが高まってくると思います。

 こうした取組みが必要なのではないでしょうか。

―物流の環境対応について日本政策投資銀行として、何かバックアップしていることはありますか。

 環境については当行では「環境に優しい物流」の証明スキームを独自に構築、環境格付融資制度を設けました。昨年からは、一定の条件を満たせば環境省から1%の利子補給を受けられるようにし、一層のバックアップを図っています。

 また、ジャストアイデアではありますが、環境への取組みに資すると判断される物流不動産に対して、CO2排出権を取得させ、それをユーザーである荷主に割り当てることで、施設にあらたな付加価値を創出できないだろうかと思案しているところです。

―将来の夢と期待を込め、物流不動産に求めるところはありますか?

 政府が推し進めている施策のなかに、二百年住宅というのがありますが、既存の物流施設の大規模更新期が差し迫っているいま、社会インフラのニーズに応えていくために「二百年物流不動産への挑戦」ということを呼びかけたいですね。

 建設における工夫としては、高耐久性コンクリートなどの材質の向上、スケルトンとインフィルの2段構造、階高・容積などにゆとりの確保を行ってい く。当然のことながら、コスト増とはなりますが、超長期でみれば経済性を確保することとなり、現実の経営に即したなかで長期施設の取組みを図るべきなので はないでしょうか。長期施設の運営のため、建て替えや機能のコンバージョン、修繕などを含めたプロパティマネジメントも今後、必要になると思いますね。物 流不動産や業界を巡る課題は少なくないとは思いますが、私どもは10月1日の民営化以降も、これまでと変わりなく物流業界の皆さまへの支援に注力していく つもりです。

▼日本政策投資銀行HP▼
http://www.dbj.go.jp