物流不動産ニュース

物流、物流不動産、倉庫を網羅した
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物流業界も「片手に『論語』、片手にそろばんの精神」を! 

 最近、電車に乗っている時、電車の扉が開くと、皆降りる人が、無言で人を押しのけている光景をよく見る。かつての日本人は、人とぶつかりそうになったときは、かるく「ごめんなさい」「すいません」などきちんと声をかけるよう親がしつけたものだ。これでは、世界的にも礼儀正しい国民として有名だった日本人の評判が落ちるのではないかと大変危惧した。アメリカでは、エレベーターを降りるときは「エクスキューズ ミー」と言葉をかける。ドイツも同様らしい。
 同様に最近の物流現場でも、あいさつや、5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)がきちんとできていない会社があり、そういう会社は、やはり業績も良くない。たかが、行儀とあなどることはできない。日常的なあいさつ、清掃などがきちんとできない人や会社では、荷主からの信頼は得られないものだ。
 電車の中での一件も、倉庫内のあいさつの話でも共通するのは、ちょっとしたコミュニケーションが取られなくなったことに起因している。もっと社内でもコミュニケーションをとり、あいさつや5Sなど道徳を徹底し、気持ちの良い現場作りに取り組めば、自然と物流スタッフのモチベーションも上がり、業績面にも良い影響があるのではないか。

 思い出すのは、私がよく行くアメリカのコンベンションでのことだ。物流現場のみならず、彼らは大会前のレセプションなどでよく知らない人と会話し、お互いの仕事についてコミュニケーションを積極的に行う傾向にある。多くの人種が暮らすアメリカでは、きちんと自己主張せねば認められないという風土があるにせよ、その気軽なコミュニケーションの習慣は、日本人も見習うべきだと思う。
 日本人の礼儀正しさについて、こんな言葉がある。思い出してもらいたい。日本の近代における産業界のパイオニア渋沢栄一は、企業を発展させ、国を豊かにするためには、『論語』をよりどころに道徳と経済の一致を常に心がけることを説き、「片手に『論語』、片手にそろばん」と言った。日本は、戦後奇跡的な経済発展を遂げたが、そろばんだけが広まってしまった。私達は大切にすべき道徳をないがしろにしてしまったのではないか。渋沢栄一の言葉は、物流業界のみならず現代に生きる私達こそが改めて肝に銘じるべきだと考えている。

 今、私は大平奨学会という埼玉県の学生に奨学金を出す団体の理事長をしている。この団体は渋沢栄一の弟子であり、おいの大川平三郎氏が私財で設立したもの。明治時代の製紙業界で大活躍した大川氏が、郷里・埼玉県の青少年育成のために、同県出身の学生に奨学金を交付することを目的として開設した。私の父もこの団体の前身、財団法人「大川育英会」のお世話になった。戦争で基金が枯渇したが、父と奨学金OBらがご恩に感謝し、再開した。今年から私が受け継ぐこととなった。やはり、ここで学生達に今一度、「片手に『論語』、片手にそろばん」の精神を学び、道徳心もある優秀な人間になってもらいたいと思っている。
 アメリカで私は、キリスト教の精神に支えられたチャリティ活動が、一般人にも根付いているのを目の当たりにし、大変感動した。私も、渋沢栄一や大川平三郎、アメリカのチャリティ精神にならい、これからも物流業界の発展と埼玉の学生達のために精一杯力を尽くしたい。

<プロフィール>
 池田光男 1969年5月米国オクラホマ州立大学大学院卒業後、米国での会社勤務を経て、71年11月東運開発専務取締役、87年5月代表取締役に就任。72年4月東京倉庫運輸社長室長、89年6月常務取締役、91年6月取締役副社長などを歴任し、現在、東運開発代表取締役社長。Council of Supply Chain Management Professionals(CSCMP)会員、国際委員などを歴任。