プラットフォーム化する物流 platform(第30回) 物流マネー70兆円のゆくえ
物流センターと生産工場の違いは何か。門に掲げられた表札を見れば明らかだろうが、外観と内装や設備では区別がつかない。特に食品業界の流通では、加工食品の倉庫に併設された食品加工=弁当工場やプロセスセンターは食品工場と完全に一体化している。
我が国の最大産業である自動車工場もよく見ると多くの部品が集積してきて、組み立てているのは流通加工と違いはない。一方、流通店舗もECの進化によって倉庫が商品陳列を行う店舗ばかりではなく、品質検査や商品カタログ作りの撮影スタジオ、顧客サービスのコールセンターまで併設するさまであり、店と倉庫の区別がなくなった。
話題のネットスーパーでは、客足の悪い立地に問題のある店舗はEC専用の入口を閉めたブラックストアと呼ぶ倉庫に様変わりしている。
生産、物流、流通、店舗というバリューチェーン、サプライチェーン構造が巨大な物流施設によって清濁合わせ飲まれて一体化している。
つまりは、物流が産業のプラットフォームになっていることの証拠なのだ。
このような業態進化、産業の垂直統合を予想していた者はいない。いまだに産業連関表というバリューチェーン相互の関係性が前提になっているからだ。
これからどうなるか。次世代の工場とは、次世代の店舗とは、ECとリアルの<買い場>はどのように進化してゆくのであろうか。
もはや年間70兆円にも上るだろう物流コストは問題でもなんでもなく、製造原価、販売促進費用、マーケティングコストに包括されつつあるのだ。コストダウンが重要なのか、販売促進の売上拡大のための投資が重要なのか、改めて<価値と価格のせめぎ合い>時代が訪れていると言えよう。物流コスト、製造コスト、マーケティングコストの統合は一体どれほどの市場規模を作り出しているのだろうか。
流通業の課題は明らかであり、それは絶対的な売上不足なのだ。坪当たり販売額、顧客単価、年間売上高が伸び悩むのは、顧客滞在時間が足りないとか、品揃えが悪いとか、立地の問題ではないのだ。世界一の売上効率を誇るアップルストアにあって、他の流通店舗にないものは何か。商品単価が違うからなのか、販売員の技術や教育レベルが違うからなのか。
3Dプリンターを備えた流通倉庫では、航空機や水力発電タービンのサプライ部品を全世界に発送するのがGEというかつてのビッグ家電産業だ。今や欧州の水力発電事業を国家単位で契約して、売電事業を行うソリューションビジネスに進化している。とはいえ電気事業者ではない。水力発電のマシンの保守と運用を契約ビジネスで保証する<発電機のアウトプット>ビジネス最大手なのだ。
産業や業種にとらわれて、競争に明け暮れるレッドオーシャンから飛び出せるものはロジスティクスに着想を得ていることに気づかねばならない。
<イーソーコ総合研究所 主席コンサルタント 花房陵>