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延 嘉隆の物流砲弾<11>“生産性○%UP”の“大本営発表”を疑え! 

前回、「実は、多くの物流マンは全体を見渡していない」という主旨のことを(堂々と)書き、多くの物流マンから嫌われ、ソリューションベンダーなどの物流周辺事業者からは「お前、余計なことを書くな」と煙たがられた。今回は、その点を掘り下げ、より嫌われることにしようではないか。

“チェーン”と“シンクロ”という二軸で大本営発表を見るクセをつけろ


毎日、見ない日が無い”生産性○%UP”という大本営発表。これらの記述は、書いていることだけでいえば正しくはあるが、書かれていないことを推察・検証していけば、本当にそうなの? と、手放しで信じ難いことは結構ある。

通常、それらの大本営発表の大半は、「ピッキングの作業効率(生産性)15%向上」というような書かれ方をする。実際に、何かしらの改善施策なり、ソリューション導入するなりして、そのような数値になったのだから、それは事実なのだろうと思う。

しかし、向上した生産性のもととなる数値が示されること、数値計測の前提条件(制約条件)が示されること、ましてや、その結果の細かな収支が示されることはまず無い。それにも関わらず、その大本営発表を“鵜呑み”にする物流マンが多いことに驚きを隠せない。

なぜならば、グローバルなサプライチェーンであれ、単に、倉庫のなかの業務プロセスであれ、物流である限りモノの流れ。理想は、ロジスティクス・サプライチェーン全体の業務プロセス、最低でも、前後のシンクロした業務プロセスも合わせて検証しなければ、本当に、効果があったか否か、有効か否か、解らない筈だ。

この主張にピンとこない物流マンがいるとしたら、おそらく、“チェーン”という概念、業務と業務が“シンクロ”しているという点を理解していないのだと思われる。

 

自動ソータ入れて、前後の業務がどん詰りになることはママある


解り易い例を示せば、「自動ソータを導入し、仕分けの生産性が○%向上。作業に当たっていた作業スタッフ△名を削減し、その結果、減った作業スタッフ分の人件費がコスト減になった」というようなケース。

おそらく、この手の表記そのものにウソは無い。ウソを書いていれば、それこそ詐欺になる。しかし、いずれかの作業プロセスをイジった場合、実は、その前後の作業プロセスに影響を与えるケースが多い。ゆえに、メスを入れた作業プロセスの生産性は向上したとしても、シンクロする前後の作業プロセスがズタボロになるということは結構ある。というか、デフォルト?と思うぐらいある。

最低でも、前後の作業プロセスに与えた影響を加味しなければ、大本営発表通りの“効果”があったかどうかは解らない。そのことをキチンと検証しないという特徴が物流業界の緩やかなところでもあり、その“緩さ”に乗じてソリューションビジネスの多くは成り立ってもいる。

 

ソリューションベンダーの“売る”ためのロジックを理解する


次に、ソリューション導入コストの点から考えてみたい。往々にしてソリューション導入することによって為される“改善”。ソリューションを導入する以上、多少なりともコストが掛る。時に、それは億にも及ぶ。ソリューションベンダーの側に立てば、それが“売り値”だ。

大本営発表の生産性UPの数値とは別に、ソリューション導入に掛かったコスト等を何年で回収するのか・・・という点に触れている大本営発表というのもまた無い(*導入前提の見積もり時点では、導入ソリューションの減価償却も踏まえ帳尻が合った“都合のいい現実”が出来る)。実際に導入を検討する場合、この点こそが判断基準になると思われるのだが、そこに関心を示す物流マンが少ないことも極めて稀有に映る。

通常、ソリューションの価格は、開発に掛かったコスト、製造原価(または、仕入れコスト)、導入に掛る周辺費用、それらに掛かった人件費等の総額に、当然、利益を乗っけて算出される。そして、その価格を以て、「導入効果がある」というストーリーを導き出すためには、導入するソリューションに応じた機器の減価償却年数、生産性向上幅、及び、その結果としてのコスト減額を総合的に勘案し、「○年で回収」という“黄金律”が出来上がる。

つまり、○年以上使って始めて、そのリアルな効果が導き出せることになる。しかし、そのような説明・・・というものは皆無。要は、売る側も買う側も、「導入する」ことが目的であって、継続して効果検証をするマインド、効果を定点観測する気など、サラサラ無いのが実情なのだ。

参考までに記せば、導入ロジックの正当性を成立させるためには、一般的には、特定の業務プロセスの15~20%程度の生産性向上で(*稀に、30%程度の数字が書いてあることもある)、(導入ソリューションにもよるが)数年~5年ぐらいで回収出来る建前論のストーリーが“黄金律”だ。

筆者は、前後の業務プロセスに与えるマイナス影響に目を瞑ったとしても、大本営発表に、導入コストを回収するリアリティーがある期間、減価償却費の兼ね合いなどを踏まえた、時間軸を盛り込んだ議論が為されるべきではないか・・・と考えるが、現実はそうではない。つまりは、誰も、正確に、ソリューション導入効果の検証など行ってはいないのだ。無論、例外もあろう(と軽くバッファーを張っておく)。

更にいえば、ビジネスサイクルや技術革新のスピードが早い今、「導入コスト回収までの間、顧客のビジネス、及び、物流は変わらないのか?」という視座もあり、「それなのに導入して大丈夫?」という本質的議論があるが、そこら辺は、“杞憂”ということにして、目を瞑るようなお茶の濁し方も、一つの大人の対応ではなかろうか。ある意味、「ムダの削減」を声高に謳い、「ムダがあることに拠ってビジネスが存在する」物流の本質にほかならない。

冷静に考えていけば、筆者の指摘は妥当なものだと思っているが、そこを明らかにしても、ソリューションの売買において得するプレイヤーもいないので、まぁ~、須らく、商いはムダにおいて成り立っていると受けとめるようにしているが、ソリューション導入する際、その物流マンが、どのような視点・思考レベルがあるか、意外と、如実に出るので、そこを見極める“術”として活用していることを付記しておきたい。

平たくいえば、導入検討の書類(比較表など)をみると、導入する側が解っているかどうか・・・が理解できる。ソリューションベンダーの側に立てば、“カモ”が誰か解り、好都合ではある。物流業界に、「実は解っていない&ソリューション好き」という人は多い。そして、“導入することに目的がある”輩が、“改善のプロ”っぽく見えている状況は、かなり“痛い”とは思うが、誰も損をしていない(商いは成り立っている)ので、殊更に、問題視することでも無いというのが筆者の見解だ。


だからといって、人前で口に出してはいけないのが礼儀作法


長々と書き連ねてきたが、一点、物流マンにご忠告しておきたい。我ながら、的を射たことを書いているとは思うが、セミナーや商品説明会、工場見学会と称し、その実は、ソリューションベンダーの営業の場において、かかる質問を人前ですることは控えて頂きたい。

なぜならば、(筆者のように)買いもしないのに、「その大本営発表おかしいよね?」と恥をかかせる必要も無ければ、客観的第三者を装って大本営発表をヨイショしている業界紙やメディアのメンツが潰れるし、コジれると、広告費やキックバックをもらっている人のメシの種を取り上げてしまうことにだってなりかねない。だから、慇懃自重すべきだ。

筆者も、30代の頃は、(自称)発達障害(*診断を受けたことは無い)もあり、思ったことをそのまま口にしていたが、一度、素朴な疑問を質問すると、それ以降、セミナーや説明会、見学会などの案内が届かなくなり、「延はソリューション嫌い」とのレッテルを貼られることになる。ひとえに、若気の至りとはいえ、世の中とはそういうもの。正しいか否かは必ずしも重要でも無ければ、真実がいつも人を幸せにするとは限らない・・・。


40代となり厄年を過ぎた今、「大本営発表のリアルな効果検証」を突き詰める行為は、お気に入りのキャバ嬢に、「俺のこと本当に好きなの?」と激詰めするような“無粋”な行為であることが理解出来る。刹那の淡い夢を見させてくれるのだから、騙されたことに気づかないのも甲斐性と思えるようになってきた。ゆえに、かかる“改善ゴッゴ”は、“擬似恋愛”と割り切ることが肝要。それが社会の礼儀作法なのだと思う。

●延嘉隆氏プロフィール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
株式会社ロジラテジー代表取締役。
物流企業経営の視点で、財務戦略(事業承継・M&A・企業再生)・マーケティング戦略を融合し、物流企業の価値を上げる物流コンサルティングファームとして評価が高い。
物流企業を中心に、事業承継・相続、物流子会社の売却など、“ロジスティクス”、“卸”、“小売”などの財務課題で、卓越した経験を有する一方で、物流現場に作業員として入り、作業スタッフとの対話に勤しむ一面も。延氏の詳しいプロフィールはコチラ。

*本連載に関するお断り