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延 嘉隆の物流砲弾<17>今更・・・、私とロジスティクス【中編】 

前回に続いて、筆者とロジスティクスについて綴ってみたい。今回も、重要なことは1ミリも書いていない。ゆえに、“学び”や“気づき”を得たい方は、スルーして欲しい。読み物としての価値は無い。

 

阪神・淡路大震災の復興議論、度重なるロジスティクス軽視の愚


1995年1月17日早朝、自民党の加藤紘一政調会長の南青山の自宅で、書生として同居していた筆者は、防衛庁からの一本の電話で叩き起された。実態は把握出来ていないものの、神戸を中心に大震災が起こったとの一報だった。阪神・淡路大震災についての詳細説明は割愛するが、当時、学生ながらも、大学の始業時間前の早朝、平河町の自民党本部で開かれる“部会”と呼ばれる各省庁に呼応した会議を傍聴していた。将来は政治家に・・・との思いを胸に、欠かさず出ていたのが“交通部会”。旧運輸省関連の会議だった。

阪神・淡路大震災の後、“交通部会”で議論されていた震災関連のテーマは、専ら、観光だった。無論、神戸港のバース被害など、ミナト町“神戸”本来の港機能に関する話題もあった。しかし、参加している議員からのこの国の貨物を危ぶむ声は然して出なかった。少なくとも筆者にその印象は無い。部会の議論を垣間見ながら、「この国の政治家でロジスティクスの視点でモノを考えている政治家はいない」、率直にそう思った。そして、その後の世界の港における相対的な神戸港の凋落はご承知の通り・・・。

実際、いわゆる“運輸族”は、航空会社であったり、JRであったり、族議員としての強みは、専ら“旅客”にあった。労働人口ベースで見れば、圧倒的に多い“貨物”に主眼を置いたものではなかった。だから、「この国で、一番、ロジスティクスに強い政治家のポジションは獲れる!」、そう信じて疑わなかった。阪神・淡路大震災を契機にロジスティクス軽視の視点に触れ、「またか・・・」と、忸怩たる思いを募らせた。

というのも、様々な議論があるが、太平洋戦争における「戦死者」230万人のうち、140万人(60.9%)は「戦病死」だったという説がある。ここではその真意を論ずることを避けるが、この国には、ロジスティクスを軽視する風潮がある。ずっと、そのことに違和感を抱いていた。インパール作戦などその最たる例である。

話が脱線するが、ロジスティクスに関わる読者におかれては、インパール作戦に関する動画をご視聴頂き、適時・的確に、モノ(物資)を運ぶ・・・ということの重要性を、今一度、認識し、我々の仕事に誇りを持って欲しい。

NHKスペシャル「戦慄の記録 インパール」20170815


ゼミで交通論を選考、ヤマトの小倉会長の言葉に感銘


筆者は、物流領域で仕事をさせて頂きながら、運送と倉庫に大別したら、倉庫に寄っていると思う。「運送が好きではないのか?」といえば、そうではない。寧ろ、逆だ。一般的に、物流費の約6割は運送費。改革・改善のメスを入れる対象範囲は、運送の方が大きい。それなのに、運送色が薄い理由は、大学時代に書いた卒論にある。

経営学部だった筆者は、ゼミを選考する際、運輸官僚出身の井口典夫教授(当時は、助教授)を師事。「交通論」のゼミを迷わず選んだ。

物流業界でこの手の議論がなされることは少ないが、自分なりの解釈でいえば、交通論は、交通権(*移動に関する権利、交通手段選択の自由、交通に関する情報へのアクセス権などを広く含む概念として提唱されている権利)と表裏一体となり、社会を機能させる物流も含めた「人と物の場所的移動及び情報の伝達」(=空間的離隔の克服に関わる行為)を学ぶ学問。ゆえに、交通政策的には、「運賃」と「規制」に関する議論が主流となりがちだ。

運輸省出身の教授だけあって、時折、登壇するゲスト講師は豪華だった。なかでも、(当時)郵政省との熾烈なバトルを繰り広げていたヤマト運輸の小倉昌男会長(故人)が、学生を前に熱く語った言葉を今でも鮮明に覚えている。

「北海道の端々や伊豆七島などの諸島部を手掛けるのと赤字。“だから”やる。物流とはインフラだ。繋がってこそ意味があり社会的意義となる。ユニバーサルサービス(全国一律のサービス)は、本当に、国にしか出来ないのか?私はそうは思わない。絶対に民間でも出来る。」

今思うと、学生ながらに、このような貴重な場面を経験したことが、(物流業界の大半が違うことを言っても)「本当にそうなのか?」と考える、今の筆者の思考の礎となっている。

 

卒論テーマは「物流二法」、最低車両保有台数規制と向き合う


ゼミの卒論テーマとして大きく異なる2つのことを考えていた。一つは、東南アジアの物流はどうあるべきか、そして、もう一つは、トラック運送業の規制緩和(物流二法)について。前回の連載で述べたが、筆者は、思想的にも、自身の関心事としても、“東南アジア”という意識が強くあった。それゆえ、どちらかというと、後者を研究しようとの思いが強かった。ベトナムに進出したばかりの鴻池運輸を見に行ったこともあった。しかし、小倉会長の話を聞き、また、最終的には、政治という進路を慮ってくれた運輸省出身のゼミの教官の助言もあり、「物流二法(貨物自動車運送事業法・貨物運送取扱事業法)」を研究テーマに選んだ。

「物流二法」という言葉は、いつも、今日のトラック運送業の疲弊話とリンクして用いられる。ゆえに、物流業界には、規制緩和アレルギーの人も多い。当時を振り返ると、「悪貨が良貨を駆逐する」、あるいは、「最低車両保有台数規制という経済的規制を以て、安全面に配慮させるという社会的規制の効果を及ぼすことは法議論・政策議論として正しいのか?」といった議論があった。

筆者の論文の論理展開は割愛するが、大学生当時、筆者は、どちらかというと、規制緩和容認のトーンで、(法体系のあり方はともかくとしても)「事業者が自主的に安全面に配慮するインセンティブを抑制するべきではない」との主張を書いた。

昨今の運送業が置かれた状況を鑑みるに、筆者の当時の主張が正しかったかどうかはともかく、「事業者が自主的に安全面に配慮するインセンティブ」といったものが現実的であったかどうかと問われれば、それを積極的に評価出来る状況は無かったといと言えよう。

そして、現実は、不幸な事故などを繰り返しながら、社会的規制が強化されていくなかで、コンプライアンスコストを負担出来る事業者と、バレなければいいとの考え方に立つ事業者とに二極化。その意識の溝は、確実に、広がっている。

同時に、現在、ロジスティクス・サプライチェーン領域を手掛ける者としてでいえば、甚だ、無責任ながら、「物流二法関連の議論に関心が無い」。「最低車両保有台数規制は何台が適正か?という視点が、ビジネスマンとして、そもそも無い」というのが率直な意見だ。

平ていに言えば、最低保有台数規制が3台だろうが、5台だろうが、「そもそも、物流業のビジネスとして儲けるのか?」という視点に立ったとき、その議論そのものが、無意味とは言わないまでも“空虚”だと指弾せざるを得ない。なぜならば、アウトソーシング業たる物流業は、規模の経済性が働く世界。つまりは、スケールがモノを言うからだ。ゆえに、何台で参入出来るか・・・が重要なのではなく、何台あれば儲かるのかが当然のことながら重要になる。

しかし一方で、物流業界全体を見廻した時、真面目にやっている人がバカを見る現実があることも否めない。その点に鑑みるならば、大学当時の思考は、浅い、机上の空論だったと真摯に反省せねばなるまい。

*次回【後編】に続きます

●延嘉隆氏プロフィール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
株式会社ロジラテジー代表取締役。
物流企業経営の視点で、財務戦略(事業承継・M&A・企業再生)・マーケティング戦略を融合し、物流企業の価値を上げる物流コンサルティングファームとして評価が高い。
物流企業を中心に、事業承継・相続、物流子会社の売却など、“ロジスティクス”、“卸”、“小売”などの財務課題で、卓越した経験を有する一方で、物流現場に作業員として入り、作業スタッフとの対話に勤しむ一面も。延氏の詳しいプロフィールはコチラ。

*本連載に関するお断り